-Interview with Toshinori Kondo (2003.5.3)-
... 祖父の記憶 ...
近藤さんが子供の頃、はじめて接した音楽は何でしたか？
Kondo：浪曲かな（笑）。ウチは、音楽が身近にあるような家では全然なかったからね。
家でクラシック音楽が鳴ってたり、ピアノを習って音階をキチンと教わったりしてたら、今のオレがやってる音楽も違うものになってたかもしれないよな。
それよりもむしろ、音楽以外の音の影響が大きかったな。鍛冶屋だったから金属を叩く音とか、それとウチの地元にはメジロの鳴かせ合いってのがあってね。鳥籠にメジロを入れて向かい合わせて、時間内に何回鳴いたかを競うんだけど、爺さんがこれに凝っててね。
メジロはトゥルルルルルルチッチッチッチッって、すごいタンギングで鳴くんだよ。あの影響はあるかもしれないな。オレのタンギングもトランペッターの中では誰よりも早いからね（笑）。
今聞かれて、子供の頃を振り返ってみるとたしかにお爺さんの影響は強かったね。小さい頃から、１階に仏壇があって２階に神棚があって、毎朝オレに仏壇にご飯をあげさせて、神棚には水をやらせて、爺ちゃんの横で一緒に拝まされる。なんでオレこんなことしないといけないんだよ、ってね（笑）。５才ぐらいの子供がね。
近隣の神社とかお寺の祭には毎回連れて行かれるわけだ。オレにしてみれば、そんなの関係なくてそこに売ってる駄菓子がほしくてね。「爺ちゃん、あの砂糖菓子買ってくれ」って言うと、「歯が悪くなるから駄目じゃー！」って言われて（笑）。何言ってんだこのジジイはホントにアッタマくるな、オレに麦飯は食わせるは、歯に悪いから甘いもんは食うな、オレに鉄でも舐めろって言うんか（笑）ってね。
だけど本当に可愛がってくれてやね、挙げ句の果てには身をもって、死んだところをオレに見せたからね。高校時代に、定期テストの前の日に、日曜日で一生懸命勉強してて、弟もいない、オフクロもオヤジも出かけてて。それで２階で勉強してて、下に降りて爺いが寝てる座敷を通ったら、２月なのに胸をはだけてて、「爺ちゃん寒いやない」って布団かけてやったら、死んでたんだよね。１時間ぐらいワンワン泣いて、ふっと気がついて誰かに連絡しないと、と思ってもオヤジもオフクロもいないから親戚の伯母さんに電話して。だから、爺いの娘の一人だよね。目の前で、人間の死まで体験させてくれたんだから、けっこう気合い入ってたよね。そのとき、77か78才だったのかな。
その翌年だよ、オレは自分で計算したこと、よく憶えてるわ。オレが17になって、60年間オレが生きるとしたらって、それを秒数に直してみたんだよ。たいした秒数じゃないんだ。（……実際に計算機を持ち出して計算……）ざっと計算して、概算で19億秒やな。１秒に１円ずつやっても、それぐらいのもんなんだ。「なんだ、何兆とかになるかと思ったら19億秒か、たいしたことないなー」って思ったことは記憶にある。
とにかく、そのとき爺いが死んで、まざまざと孫に生と死を見せつけたことになるな（笑）。
とにかく仏壇と神棚に毎朝水とご飯、で神社参りもね。何だったんだろうな、あれは。まあ単なる信仰心の篤い、明治時代のどこにでもいるお爺さんの一人だったんだろうけど。
お爺さんの兄貴二人は日露戦争に行った人たちで、二百三高地を最後に登った人がそのうちの一人で、オレの田舎に幼稚園の頃に来たときにも、オレを呼んで、腹をパッと捲ったらそこに傷があって、「露助にやられたんじゃー！」とか言われて。オレは全然分からんから、台所に行って母ちゃんに「母ちゃん、ロスケって何」「ロシア兵や」「ロシア兵が何したん」「銃剣であの人、突かれたんや」「死なんかったん？」「死んでないけん、今もおるやない」って言われて（笑）。
そんなこと言われても全然分からんよね、何のことか。背筋ビッと伸ばして、突き抜けるような目線ピューッと飛ばして二人で酒飲んでて、爺いが横にいて、子どもながらに「おかしいなー、ヤバいなー」って（笑）思ったね、あの世界はね。
大三島の大山祇神社では、春と秋に神さんと相撲（角力）をとるんだよ（注・この神事は県指定無形民俗文化財とされている）。それをやってるのがオレのオヤジのいとこだよ。でも神さんは見えないじゃん。だから一人角力なんだよ。角力とりと行司しかいないんだ。それで、一勝二敗で負けるんだ。神さんが勝つ。それを延々やってる爺ちゃんで、その人もいつも来てて、またこの人もブッ飛んでてね（笑）。
神様に一回勝つっていうのもスゴいですね（笑）。
Kondo：とにかく一勝二敗で負けるんだよ。それが本家の長男で、オヤジのいとこになるんだけど、全然欲のない人で、本家はけっこう金があったらしいんだけど保証人になって全部財産なくなった爺いで、それでものほほんと家に来てはボーッとしててね。
